先週末にふらっと行った丹後の旅で見学した「鳴き砂」のお話です。丹後半島の海岸に「琴引浜(ことびきはま)」っていうところがあるのですが、ここの海岸が「鳴き砂」として有名なんです。
みなさん。鳴き砂はご存じですかね。上を歩くとキュッキュキュッキュって音がする砂。正確な数はわからないそうですが、日本には100カ所くらいそういう砂浜があるんだそうです。この鳴き砂は天然記念物に指定されてて、勝手に持って帰ると法律で罰せられるそうです。知ってないとうかっと持って帰りそうになります。
で、琴引浜が鳴き砂で有名なのは知ってましたが、わざわざ浜まで行かなくても鳴き砂を体験できる施設があるっちゅうんで、やってきたのがここ「鳴き砂文化館」。
何もわざわざ体験したくて来たのではありません。この季節の網野町には他に観光スポットがなく、また風は強いわ海は荒れてるわ食べるもんは何もあらへんわで、高速バスの時間まで時間を潰すところがここしかなかったからやってきたのです。しかも旅館の仲居さんが「イマイチですわー」いうてオススメせんかった施設です。全く期待してなかったんですが、期待を裏切って非常に勉強になる施設でした。
「こんにちわあ」言うて入りますと、ヒマそうにしてたスタッフのおばちゃんが奥から出てきはります。入場料は1人300円。これを支払いますと、施設の見学の前にまずは路線バスのバス停をおばちゃんに確認です。
「すんません。帰りは10時27分に琴引浜っちゅうバス停から間人行きのバスに乗りたいんですけど、バス停ってどのあたりにあるんでしょう?」
おかしなことを聞く客やなあって思うたやろね。そもそもバスで来るような客はおらんのでしょうし、仮にバスで来たんなら、また同じところから乗ったらええんと違うのんって思わはったかも知れません。実は網野駅までの宿の送迎バスに乗せてもらって途中のここで降ろしてもらってるんですわ。
おばちゃんは親切に教えてくれた上に、10時27分で間違いないかも確認してくれはりました。これで安心。ここを10時22分に出れば帰りのバスには確実に間に合います。鳴き砂文化館の見学時間は40分間もあります。
このおばちゃん、やっぱりヒマやったんでしょうな。他にお客がいないというのもあって非常に親切にもつきっきりでガイドしてくれはりました。まずはこれ。
「カエルのゆりがご」って名前がついてます。鳴き砂がキュッキュいうのは乾燥した砂同士が擦れるからやと思うてましたが、水中にある砂でも鳴るんですって。この写真の透明のカプセルみたいなもんに水と鳴き砂が入ってるんですけど、手すりをもってゆりかごみたいに前後に揺らすとカエルの鳴き声みたいな音が鳴るんです。音もすごいけど、手に伝わってくる振動がハンパないんですよ。とってもきれいな砂だけが水中でも鳴くんだそうです。
じゃあ、きれいな砂ときれいじゃない砂の違いって何なんでしょうかね。これもおばちゃんがわかりやすく説明してくれはりました。
そもそも鳴き砂は石英の粒が擦れあうときに音が鳴るんだそうです。その石英の成分が砂全体の65%以上ないと鳴らないって言うてはりました。この写真にあるように、ボウルに石英65%以上配合の砂が入れてありまして、棒でつっつくとギュって音がするんです。
で、お客さんみんなが棒でつっつき続けるとだんだん鳴かなくなるらしいんです。なんでやと思います?実は石英以外の砂の成分が、みんなが棒でつっつくことによって細かく分解されて、その分解された小さな粒子が石英の粒のまわりにくっつくんやって言うてはりました。これがきれいじゃない汚れた砂なんだそうです。3つのボウルの左に、既に鳴かなくなった砂がごっそり置いてありまして、鳴く砂と鳴かなくなった砂をそれぞれペットボトルに入れて水を入れてくれはりました。
両方を振ってみると、鳴く砂はすぐに上澄みが透明になったのに対して、鳴かなくなった砂はしばらく濁ってました。写真でわかりますかね。左の小さいペットボトルが鳴かなくなった砂です。同時に振ってすぐの写真です。
じゃあ鳴かなくなった砂はどうしたら鳴くようになると思いますかあ?私も水でキレイに洗って石英についた砂の分解物を取るんやと思いましたが、おばちゃんが言うにはそんなことでは簡単には鳴くようにならないんだそうです。おばちゃんの答えは簡単でした。
「また琴引浜に戻すだけですよ」
きれいな海の自然の波が砂をキレイにしてくれるんだそうです。いや、逆に自然の波にしかできないんですって。そして何より海岸がきれいじゃなければいくら波で洗ってもキレイにならないんだそうです。一番アカンのがタバコの吸い殻というか灰やって。石英の粒についたらなかなか取れへんそうな。
次におばちゃんに連れていかれたコーナーはこれ。
「砂はいれる器の大きさによって、鳴く音の高さが変わるんですよ」
左から順番にド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドって書いてありますわ。でもホンマに器の大きさで砂が鳴く音の高さって変わるんやろか?砂の鳴く振動によって器が振動して音が鳴るんやったら確かに器の大きさで音程が変わるとは思うけど。違うのかなあ。
で、実際にやってみました。確かに小さい器ほど音は高くなる傾向はありますが、これでドレミファソラシドっちゅうのは無理がありますわ。多少は音楽やってるんですが、下のドと上のドの差って半音くらいやと想像します。1オクターブなんてとんでもない。
「わざわざ1つずつにドレミファソラシドって書かなくても、『音程が変わります』だけでええんと違いますのん?」
こうおばちゃんに言うてやりますと、おばちゃんはこう言いよります。
「気ぃのもんですわ。聞こえる人には聞こえるんですわ。」
気持ちを込めて聴くと音階に聴こえるんだそうです。
その隣のコーナーには究極にきれいな鳴き砂がありました。オーストラリアかどっかの砂らしいです。カエルのゆりかごと一緒で水中でも鳴くんです。
これを棒でつっついたときの音と振動はすごかったですよ。うまく表現できませんがすごかったんです。
次におばちゃんが紹介してくれたのは微小貝のコーナー。微小貝って文字通りとっても小さい貝っていう意味です。恥ずかしながら私はこの存在を知りませんでした。ですのでこの展示は結構な驚きです。
こないして琴引浜の砂が積んであって、その中に成長しても1mmにも満たないような小さい貝が混ざってるのを虫眼鏡で探して顕微鏡で観察するんです。
この微小貝って同志社大学の名誉教授の三輪先生っていうえらい人が、ここ琴引浜の鳴き砂の研究をしてるときに見つけたって言うてはりました。そういえば入口に石碑がありましたわ。
何をしたおっさんやろって思ってましたが、なかなかえらい先生やったんです。
さて、このきれいな鳴き砂の浜の汚すのは、マナーの悪い喫煙者のタバコの吸い殻だけではありません。2階の展示室のこれを見てビックリしましたわ。
韓国や中国からいろんなもんが流れてくるってね。それらから砂浜を守るためにみなさんすごい努力をされてるそうです。これは何かわかりますか?
使い捨て100円ライターですわ。日本産、韓国産、中国産ってわけて展示してあります。だいたいはお店で配布されてるものですので、店の名前と住所と電話番号が書いてあるんです。ハングル語や中国語で書かれてます。捨てたのはお店の人やないからお店は悪くないんですが、何かイメージ悪いですな。
これはビンとかペットボトル。ハングル語です。ここまで流れてくるもんなんですね。
あんまり馴染みはないんですが、韓国や中国ではプラスチック製の名刺があるんですか。
はっきり名前も住所もわかるよう状態で名刺が展示されてます。
その他にもびっくりするようなもんがいっぱい展示されてましたよ。点滴びんとか注射針のような医療用の廃棄物も多いんだそうです。ホンマ何を考えとんねんです。やめてほしいですわ。
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案内のおばちゃんは最後にブーミングサンドというのを紹介してくれました。ブーミングサンドとはもともと砂漠の砂が滑り落ちるときに鳴き砂と同じように擦れて「ブーン」っていう音が出るのをさすんだそうです。琴引浜の砂も鳴きますからな。これを筒に入れて落としたら同じようにブーンという音がするやろうというアイデアです。こんな装置。
下にバケツが置いてますでしょ。筒の下の栓を開けると砂時計のように筒からバケツに砂が落ちます。すると確かに「ブーン」という大きな音とともにかなり激しい振動が伝わってくるんです。そうですね、ちょうどお祭りの時の露店のたこ焼き屋が使う発電機の音と振動くらいですかね。
この写真、途中でおばちゃんが筒の栓を閉めて砂を止めたところで撮影してます。本当は砂が落ちてるところを撮りたかったんです。で、おばちゃんに言いました。
「すんません、もうちょっとだけ鳴らしてもらえませんか?」
そしたらおばちゃんはこう言います。
「いや、これ以上はアカンのですわ。下のバケツに落ちた砂は、筒の上にまた戻さなあかん。これ以上になると私の力では重たくて戻せへんさかい。」
いっぺんに戻さんといかんのかなあ。何回かに分けて戻してもええように思うけど。
40分ほどの時間でしたが、おばちゃんのおかげで十分に楽しめました。また知らないことも勉強になりました。まあこのためにわざわざ行くというような施設ではないかも知れませんが、この冬に丹後半島にカニを食べに行こうという方や、来年の夏に海水浴やキャンプに行くという方は、帰りにちょいと立ち寄ってみられてもいいんじゃないかと思います。