かずら橋ひとり旅の続きの話です。
朝の5時30分に高松東港に到着してすぐに走り始めて、途中7時30分ごろうどんを食べまして、厳しい登りの山道をヘロヘロになりながら走って12時過ぎにかずら橋に到着。団体ツアー客にまじってひと通りの観光をしますとお腹がすいてきます。周辺には食べるところがありません。かずら橋へ向かう道にレトロな茶店が何軒かあるのと、あとは駐車場にあるお土産物やさんの中の現代的なフードコートくらい。今までの旅の経験からフードコートってのはいわゆるファストフードと同じで、決してまずくはないけど美味しくもない標準的な都会の味のイメージですからね。せっかくの旅先ではあまり利用したくないというのがありまして、レトロな茶店の方に入ることにしました。ちなみに昨日のブログの最後の方で紹介した写真も再度掲載しますが、このようなイメージのお店です。
念のため書いておきますが、これはイメージです。実際に入ったお店は似たような別のお店です。
入り口に「祖谷名物 手打ち冷やしぶっかけそば ¥500」って書いてありましたので入ったんです。名物かどうか知りませんが、フードコートは別としてどの茶店もうどんかそば以外にメニューがないみたいです。丼ぶりとかカレーとかできそうなもんですがね。
「何にしましょう?」
店員のおばちゃんが注文を聞きます。店に入る前から注文は決めてましたので即答します。
「名物冷やしぶっかけそば、あとそこの鮎の塩焼を1本くださいな」
するとおばちゃんはこんなこと言います。
「そばはどのおそばにしますか?」
どのおそばって、今言いましたがな。
「どのそばって、入り口に書いてある冷やしぶっかけそばいうの、あれ。あれですわ。」
「何も入ってなくてもよろしいですか?」
何も入ってないってのがよう理解できんかったんですが、どういうこっちゃと聞き直しますと、要するにトッピングの問題ですわ。とろろとか山菜とか入ってないけどええのかと聞いてはるんです。まずは純粋な名物の味を味わうのが基本やと考えてますんで「何もなくていいですよ」って言うたんですが、おばちゃんからまさかの言葉が。
「山菜とかとろろを入れた方が断然においしいですけどね。本当に何も入れなくていいのですね?」
そないに言われたら心配になります。言葉では「入れた方が断然おいしい」って言うてますが、私には「入れなければマズイ」って脅されて聞こえます。不本意ながら「手打ちとろろぶっかけそば¥600」に変更することになりました。それやったら入り口の看板にこっちをメインに「名物」って書きなはれって思います。
先に出てきたのが鮎の塩焼き450円。既に炭火でじっくり焼かれてますからすぐに出てきます。
びっくりしました。これ、むちゃくちゃ美味しいんです。鮎そのものも良質なんでしょうな。鮎というもんはもともと脂がのってるような魚やないんですが、ジューシーで濃厚な味わいでした。大満足です。そして出てきた名物のとろろそば。
そばの上にとろろと天かすとネギと海苔がのっててめんつゆがかけられてます。写真ではサイズがイメージしにくいですが、ボリュームはかなり少なめ。まあボリュームのことはよろしいわ。むしろこれ以上ボリュームがあったら困ります。とても食べられる味ではありません。麺はぐにゃぐにゃでブツブツ切れますし香りは全くありません。麺つゆは醤油がきつくて辛すぎ。半分くらい食べたところでギブアップ。残した図を写真に撮っておけばよかったんですが、とろろを入れたことで却って食べにくくなったんです。とろろがなければ麺つゆだけ灰皿に捨ててそばを食べることができたかも知れません。
長時間の休憩がしたかったんで食後も水ばっかり飲んで30分ほど滞在したところでお会計をお願いしますと、おばちゃんが大胆にも「美味しかったですか」と聞きはりますのでこう答えます。
「鮎の塩焼き“は”とってもおいしかったです」
“は”にアクセントをつけてやりましたが、そばを半分も残してるのを知ってたんでしょうな。こんなこと言いよります。
「うちのそばは純粋な手打ちやから、ぷつぷつ切れやすいんです。」
そういう問題やあらへんと思うんですがね。ちゃんと1050円支払ってお店を出ました。
さて急に思いついて出発した旅ですが、やっぱり準備不足はあきません。高松からここまでこれだけの坂を登ってきたんだから後半はほとんどが下りだろうと勝手な思い込みをしておりました。かずら橋からまずは国道32号線の大歩危というところまで県道45号線を走らないといけないのですが、ここにびっくりするような峠がありました。最初はこんな坂でした。
これでも結構きついんですが、写真の正面の山にななめに白い線が見えますでしょ。あれ見て嫌な予感が。さらに坂道を進んで近づくと予感は的中です。
白い線はやっぱり道路でした。この道はあこにつながってるんや。目の前の山を越えなあかんということです。ヘアピンカーブの途中で振り返って撮った写真。
もちろん一番軽いギアをつかってますが、100m進んで1回休憩するというペース。歩いた方がはやいかもしれません。休憩中に見える景色はこんなのです。
そして1時間くらいかかってようやく峠のトンネルにたどり着きました。
トンネルを抜けると急な下り坂で一気に大歩危。ここから32号線で高知へ。
ここから先はてっきり下りだと思うてたんですが、実はゆるくて長い上り坂やったんです。さっきのきつくて短い峠でかなりのダメージを受けたあとに、長い上り坂はじわじわときいてきます。ペダルをこいでても全然力が入りません。頭もふらふらしてきたところで気がつきました。血糖値が下がってるんやないかと。7時30分にちゃんとうどんを食べたけど、昼は鮎の塩焼きしか食べてへんようなもんですからね。コンビニが1軒もない32号線で、たまたまお菓子を売ってるJAのお店を見つけたんで買いました。
これ、いっぺんに1箱全部食べてやりました。雨も降りだしたところですが、最後の力を振り絞って何とか最後の峠に到着。この時点で既に17時を過ぎておりました。
ここから先はさずがにずっと下り。自転車につかまってるだけで進みます。
ただゴール前10kmは平地でしたが、もう筋力も体力は全然残ってませんでしたね。18時すぎにフラフラになりながらも予約していたホテルに到着しました。
さて、ホテルの大浴場に入りましてきれいになりますと元気が出てきます。おなかもすいたので高知の繁華街「はりまや橋」に路面電車で繰り出します。最初、高知市内の路面電車は走りながら謝罪するんかと思いましたが、「後免」という駅があるんですね。
高知といえばアンパンマンのふるさと。街にはバイキンマンとドキンちゃんの像もありました。
きっとアンパンマンの像もどっかにあるんでしょうな。そしてこれが有名な「はりまや橋」。
うんちくがどこにも書いてなかったように思うのですが、なんで全国的に有名なんかがようわかりません。京都の晴明神社にある一条戻り橋みたいなもんでしょうな。ちょっとがっかり。
このはりまや橋から高知の繁華街になるようです。たくさんのお店が多くのお客さんで賑わってます。週末とは言えすごい人の数でしょう。
ちゃんと調べたわけではないのですが、これ、ほとんどが地元の人で観光客は少ないと想像します。高知は景気がいいのかも知れません。ぼらぼら歩いていますと面白そうなお店がいっぱいあってどこに入るか非常に迷います。全然下調べをしてませんので。
「酒を征すは天下を征す!!」って、ええなあ。何を持って酒を征すと定義するんやろ。高知の人は酒豪ばっかりなんでしょうな。
喉も渇いておなかもすいてるんで、店の外から中をちょいと覗いて雰囲気がよさそうなら入ろうと決心したんですが、ちょいと覗くとたいていの店が満席なんですわ。うろうろして4軒目に覗いた居酒屋。カウンターだけ空いてたので入りましたら「1名様、カウンターへどうぞ」って案内してくれました。
高知と言えばカツオのたたきが有名ですが、それよりも楽しみにしていたのが清水サバ。土佐清水というところで獲れるサバがすごくおいしいって聞いたことあります。適当にお造りにしてもらいました。
カツオもサバもヒラメもとっても美味しいです。お刺身を食べながら生ビール2杯飲みますと、今までの疲れとか空腹感がなくなってきたんでしょうな。京都弁ではほっこりしたっていうんですがリラックスして気持ちが落ち着きました。そこで初めて気がついたんです。このお店、やかましい。
カウンターの後ろがテーブル席5つあって、10人組、6人組、4人組、3人組で飲んではるんですが、その人らの声がむちゃくちゃ大きいんです。最初は喧嘩してるんかと思いました。大きい声やと何をしゃべってるのか簡単にわかりそうなもんですが、不思議なものですよ。これだけのグループがいっぺんに大きい声でしゃべると、逆にそれぞれが何を言うてるのか全然聞き取れないんです。偉いのはお店のスタッフです。この大騒音の中で、カウンターの中にいても、客の言う料理や飲み物の注文をきちんと聞き取って、タイムリーにスピーディーにテーブルに運んではります。客の注文はすごいですよ。どんどん持ってこいって感じで注文しはります。
いただいたお刺身はとっても美味しかったんですが、このパタパタ感に嫌気がさして次の料理を注文せず店を変えることにしました。
2軒目にたまたま入ったお店も地元の人がいそうな居酒屋。5席しかないカウンターに先客が1人でいてはるのが外から確認できましたんで、ちょうどええわと思って入ったんですが、カウンターの右と左の両側にテーブル席と座敷があってそっちはおそらく満席のようです。
1軒目の店とは違って、座敷はカウンターからの距離がちょっとあったんで最初はそんなに気にならなかったのですが、やっぱり全体的に騒がしいんです。何組くらいの客が座敷にいたのかわかりませんが、少し離れたカウンター席にいておそらく普通のボリューム設定の巨人戦のTVの音声が全く聞き取れないやかましさ。楽しそうに飲んではるんやと思いますが喧嘩してるように聞こえます。そして1軒目と同様、飲み物食べ物を注文するペースが速い。ストップするまでどんどん持ってこいって感じで、店のスタッフもずっとバタバタ動いてます。カウンターで1人で飲んでる人間にとっては非常に落ち着かない空間です。
私と同じことを思うてはったんでしょうな。先に来てカウンターで飲んではったお客さんが、お店のスタッフに言いました。
「高知のお店はいつもこのような感じですか?」
そのカウンターのお客さんは広島から仕事の出張で来はったみたいです。「このお店」と言わずに「高知のお店」と言わはったことから、おそらくここが1軒目じゃないんでしょう。私と同じようにここに流れてきたのかも知れません。
土佐ジローという地鶏を使ったハンバーグとしてワインを2杯だけいただいただけで、このお店も出ました。ハンバーグもなかなか美味しかったですが、やっぱり1人でゆっくり飲みたい人間には厳しい環境です。
疲れもたまってることですし、もうこれ以上飲み歩くのはやめてラーメンだけ食べてホテルに戻ることを決断。いつもならいかにもおいしそうなお店を探して入るんですが、この時のお店に入る判断基準はおいしいかどうかではなく、静かかやかましいか。一般的にお客が全然いないガラガラのお店ってダメなことが多いです。私は60~70%の席が埋まってるお店がベストやと思うてますが、この日に限っては20%くらいの店を探します。最後にラーメンくらいは静かに食べたい。
入ったお店は6席くらいあるカウンターに4人、5つあるテーブルに2組のお客がいてます。カウンターに案内されるかと思いきや、4人用のテーブルにどうぞって言うてくれました。高知ってラーメンのイメージが全然ないんで聞きました。
「高知でオススメのラーメンってどんなんですかね?」
するとスタッフは言います。
「うちはしじみラーメンが自慢です。名物のしじみラーメンが断然オススメです。」
この日は「名物」のそばで騙されてますからなあ。でも、しじみラーメンって食べたことないし、またメニューを見る限りこれ以外のラーメンって一般的なもんしかありませんから、ここはしじみラーメンを注文することに。
このしじみラーメンって、高知のこのあたりではおそらく本当に有名で名物なんでしょうね。地元の人の飲んだ後の定番ラーメンなんやと想像します。ラーメンのお味については全く文句ありません。普通においしかったです。
問題はしじみラーメンを注文してからラーメンが出てくるまでの約10分間の間に発生したことですわ。店の入り口の戸が開いて大きな声が聞こえます。
「しじみ5つ!」
「9人ですけど、入れますか?」
やかましいお客さんがしじみラーメンを狙いうちで、どんどん押しかけてくるんです。あっという間にテーブル席は満席。私が座ってる4人掛けのテーブルにも3人組が「相席お願いします」言うて座ります。「イヤですわ」ってなかなか言えません。その3人が座ったタイミングで私のしじみラーメンが提供されます。その3人さんもしじみラーメンを注文しますが、彼らがラーメンを待ってる間、私がラーメンを食べてる間、しゃべるわしゃべるわ、これがまたやかましいのやかましないの。
ラーメンを食べてお店を出る時の最終形。やかましい雰囲気が伝わりますかね。
高知でゆったりとしっとりと飲むというのは難しいことなのかも知れません。