今年になって北陸地方にも仕事でちょくちょく足を運ばなければならなくなってます。サンダーバードに乗るのにもずいぶん慣れてきましたが、やっぱり揺れるせいでしょうかね。長時間乗ってると結構疲れますわ。東京往復しても全然疲れない新幹線N700系はずごい優秀やということがようわかります。前にも書きましたように乗ってる客層も違いますからね。
そんなサンダーバードでの北陸出張ですが、これが金沢と富山では微妙にストレスが違うんですわ。京都から福井までが90分、金沢まで135分、富山まで170分。金沢と富山の差はたった35分だけなんですが、この35分が疲れ方にものすごく影響してるように感じます。金沢なら日帰り出張もアリかなと思いますけど、富山だと日帰りするのをためらいます。そう言えばN700系のぞみでも東京まで140分、博多までだと170分。東京の日帰りは全然ストレスないけど、博多の日帰りだと微妙にストレスあるかも知れませんね。車両の違いじゃなくて人間がストレスなく乗り物に乗れる時間の閾値が140分くらいに設定されてるのかも知れません。
でもよくよく考えると、金沢や東京は日帰りできるのに富山や博多は日帰りをためらう理由はもしかしたら140分という時間以外にもあるかも知れません。それは「せっかくだから1泊して飲みに行きたい」という自分の中の気持ちがそうさせてる可能性があります。もちろん金沢にもおいしいものはたくさんあるんですが、特にお魚に関しては富山になりますとおいしさが格段にグレードアップするんです。氷見港や新湊港でその日に取れた魚が食べられますからね。特に港に近い高岡市のお店では、東京や大阪に出回らないB級の新鮮な魚が安く提供されてます。
高岡市は自転車旅行などで今までに何度も行ってる街なんですが、この街は絶対に期待を裏切りませんね。富山市にしても金沢市にしても、だいたいはおいしいものが食べられるんですが、きちんと情報収集してお店を選んでも5回に1回くらいは「イマイチやったなあ」って店にあたってしまうのが普通です。でも高岡のお店は今のところはずれた記憶がありませんわ。もちろんある程度の情報収集をした上でですが、どの店に入っても大満足で帰れるんです。前回7月に日帰りで高岡往復した時は懐かしさもあって知ってる店「いくらちゃん」に行きましたが、この店ちょっと駅から遠いので、今回は「いくらちゃん」をやめて新しい店を開拓することに。ホテルは酔っ払ったらいつでも帰れるように飲み屋街のド真ん中にちゃんと手配してあります。
夕方の仕事を終えまして19時過ぎに宿泊するホテルにチェックインします。名前を告げますと
「お待ちしておりました。こちらの宿泊カードにご記入をお願いします。」
こう言われます。どこのホテルでも同じなんですが、あれね、ネット予約してて既に住所や電話番号どころか生年月日まで個人情報を全部知らせてあるはずやのに、なんでわざわざチェックインのときに住所や電話番号を書かんといかんのでしょうかね。たまにちゃんと個人情報が印刷された状態の宿泊カードを出されて、「こちらで間違いなければご署名ください」言うてサインだけさせるホテルもありますけど、ほとんどのホテルで京都の長-い住所を書かされます。まあここのホテルのフロントの女性に文句を言うても仕方ないんで、京都独特の長い長い住所と電話番号とごちゃごちゃっと書きました。もともと字がヘタな上に、面倒くさいんで乱暴に書きますから、読めるか読めへんかわからんような汚い字になってしまいますわ。でも読めないような字でも多くのホテルでは問題になりません。というのは住所や電話番号はちゃんとネット予約時に連絡していてホテル側もわかってますからね。宿泊カードへの記入はセレモニーみたいなもんです。
「へたくそな字ですいませんねえ」
こう言ってフロントの女性にカードを提出しますと、この女性
「とんでもないです」
こう言うて宿泊カードを受け取りはりました。
私も意味はわかってます。私が自分の字に対して「へたくそ」だと謙遜したことに対して「そんなことありませんよ、きれいでちゃんと読めますよ」ということを言ったと思うんですが、わざと意地悪でこう返してやりました。
「とんでもない字ですかね。そんなにヘタクソですかねえ。読めないことはないと思うんですが・・」
冗談で言ったつもりなんでサッと軽く流してくれたらええんですが、この女性、まじめというか冗談に慣れてないというか1つ1つ確認をしだしました。
「ええっと、これは『京』ですよね。こちらは『藤』ですね、これは『1』ですか、えっ『7』ですか・・・」
いらんこと言うたんはこっちの方なんで、仕方なく住所と電話番号を全部読み上げて確認するはめになりました。こんなの初めてです。
確認が完了しますと、フロントの女性はこう言いはりました。
「本日は完全禁煙のシングルルームをご予約いただいておりますが、デラックスツインツームが空いておりますので同料金でアップグレードさせていただいてよろしいでしょうか?」
たばこの匂いが大嫌いなので、ネット予約する際も絶対に禁煙ルームを強く指定してましたんで彼女の口から「完全禁煙」って言葉が出てきたんやと思いますが、確かに「けったいなこと言うなあ」って違和感はありました。まあ同料金でゴージャスな部屋にアップグレードできるんやったらありがたいこっちゃって思って「じゃあ、お願いします」って言ったんですが、そのゴージャスなツインルームに入りますと「完全禁煙」って言葉の意味がわかりましたわ。まあ我慢できる範囲ではありますが部屋が微妙にタバコ臭いんです。つまり、は禁煙ルームやけど過去に喫煙も可能やったという部屋なんですね。「不完全禁煙ルーム」な訳です。空気清浄機が作動しておりましたわ。そうやとわかってたら「完全禁煙」のシングルルームの方がよかったんですが、まあ仕方ありません。
さて、軽くシャワーを浴びて20時前。駅前の飲み屋街に繰り出します。10年前は結構な賑わいをみせていた飲み屋街ですが、今は北陸新幹線の建設に伴う駅ビルの工事の影響で非常に寂しいです。駅前の様子。かつての「飲食街」は真っ暗です。
これがかつてのメインストリート。人の気配がありません。
かつて通っていたスナックの看板だけはまだ残ってました。「おわらスナックツッチー」です。
店のママが土田さんって言うんで「ツッチー」って名前になったそうです。同じツッチーとして10年前にたまたま店に入ったんですが、土田ママとバイトの女の子にはいろいろ親切にしてもらいました。5年以上も前に店は閉店したんですが看板は撤去されてません。
ここもかつてお世話になったお寿司屋さん。ここは健在でした。安くておいしかったので、よくおわらスナックに出前してもらってました。
さて、目をつけてきたお店は「魚人」っていう店です。末広町の大通りの反対側にあります。その途中の細い路地には地元民しか行かないような小さい飲み屋がたくさんありました。
よそ者が「こんにちわあ」って入りにくい店ばかり。中からはカラオケを歌う客の声が聞こえてきます。一昔前のTVドラマに出てくるような風景です。なかなか味があります。チャレンジしたい気持ちはありましたが、この日は「魚人」にこだわります。
細い路地を通りぬけてようやく目的地に到着です。
店に入りますと大勢の地元民で賑わってました。幸いカウンターに座ることができまして、とりあえず瓶ビールとを注文。メニューはこんな感じです。
地魚を使った刺身と焼き魚が売りの店のようですが、この「新湊直送ほっかほっかカニ」の言葉に心が動いてカニを注文してしまいました。どんなもんが出るのかわかりませんが「ほっかほっか」ということは1杯丸ごと茹でたてってことでしょう。それが1900円ならまあお得かなあと思いまして注文したんですが、出てきたのがコレ。
紅ずわいがにですが、想像以上に大きいんです。写真ではわかりにくかも知れませんが、重量にして800g、いや1kg近くあるカニやと思います。店のマスターに「これって、800あるんと違いますのん?」って聞きますと、測ったことないからわからんけど「800くらいはあるやろなあ」って言うてはりました。紅ずわいも800gあったらむちゃくちゃおいしいですよ。通常スーパーなんかで売ってるのが400から500くらい。殻ばっかりで身が全然詰ってないスカスカのが多いんですが、800になりますとずっしりと身が詰ってて味が濃いんです。関西はともかく首都圏では絶対に食べられないものやと思いますよ。これで1900円は信じられません。
でもおいしいカニは1人で食べるもんやありません。800g。殻の部分が半分あるとしても正味400gのカニ肉を食べるわけですから、当然カニだけでお腹いっぱいになってしまいます。本来の目的だった地魚の炭火焼が食べられんようになってしまったんですわ。
瓶ビールの後にお酒も熱燗で4合いただきまして十分酔いましたので、昨日は結局カニだけでお店を出ることになりました。
店を出る前にマスターに「高岡はいい店ばっかりですねー」って話をしますと、マスターは「いい店がほとんどやけど、スナックは注意した方がええ、たまに何万円とぼったくられるスナックがあるから」って言わはるんです。
これは意外でした。私は地方都市のスナックは基本的に安心というイメージがありますし、まして高岡は「おわらスナックツッチー」具体的ないい経験がありますからなあ。熱燗4合も飲んで酔っ払ってなければ、どっかのスナックに軽く寄って帰ろうかくらいの気持ちがあったんで驚きです。
でも「魚人」からホテルに帰る間の繁華街を歩いていますと、何かややこしそうな気配は感じましたわ。10年前には無かった雰囲気です。客引きです。
おそらくほとんどが中国人です。片言の日本語で女性が「ちょっとだけ飲んでいかない?」とか「3000円飲み放題あるよ」とか声をかけてきます。10年前は客引きなんて全くなかったですからねえ。スナックみたいな2次会系の店は全く様変わりしたのかも知れません。もちろんこんな客引きには引っかからずにまっすぐホテルに帰ります。
スナックの中国人以外にたくさん声をかけてくるおっさんがいます。誰やと思います?
実は「運転代行」のおっさんです。やっぱ地元民が自家用車に乗って飲みにくるという文化なんでしょうね。飲んだ後はタクシーに乗るんではなくて運転代行を頼むのが一般的なんです。たくさんの代行業者が繁華街近くで待ち受けてまして「代行いかがですかぁ~」って声を掛けてくれます。こないして駐車場まで用意して客待ちをする業者もいます。
さてこの日はホテルに早々に帰って寝まして、今日の仕事も無事終えましたところが18時の富山駅。もともと富山にもう1泊して明日に富山空港から福岡空港に飛行機で移動する予定でしたが、いろいろ考えた結果、今日は一旦京都の自宅に帰って、明日あらためて京都から博多に新幹線で移動することに変更しました。最終のサンダーバードまで2時間弱の余裕があります。ちょっと1杯飲んでからサンダーバードに乗ろうと考えたんですわ。富山駅前でええ店を「食べログ」で検索しようと携帯をカチャカチャやってたんですが、何か面倒くさくなったのと、前日にカニしか食べられなかった残念感もあって「今日も魚人行って、のどぐろ食べたろっ」って考えたんです。JRの切符は途中下車できますからなあ。富山から普通電車乗って15分高岡で降りましたわ。
「こんばんわぁ。今日も来ましたでー。最終のサンダーバードで帰るんやけど、ちょっとだけ飲ましてー」
こない言うて店に入りますと、えらいもんですなあ。店のスタッフ5名は全て私のことを覚えてくれてました。昨日の今日やからさすがに覚えてるか。でも昨日とは違って店のカウンターにはお客が誰もいません。
「昨日のカニはおいしかったけど、カニだけでお腹いっぱいになって焼き物が食べられへんで残念やったわー。」
イヤミをこめてこない言いますと、店のスタッフ一同えらい喜んでくれましたわ。瓶ビールとのどぐろを注文。のどぐろは焼けるまでに20分くらいかかるんで、お刺身にバイ貝を注文しました。これがまたむちゃくちゃおいしい。
バイ貝をアテにビールを飲んでますと、お客が少ないこともあってヒマなスタッフは日本シリーズを見入ってます。
富山は圧倒的に巨人ファンが多いらしいですね。同じ北陸でも石川県は中日ファンが多いんですが、魚人のマスターは日本シリーズの1つ1つのプレイに解説者みたいにコメントします。ボールカウントは随時確認。配球にも注文があります。やかましいのやかましないの。
そうこうするうちにのどぐろが焼きあがりました。
これまた大きいサイズで脂がのってむちゃくちゃおいしい。マスターが言うにはこののどぐろは最高やそうな。じゃあ最高やないのあるんですかねって聞きますと、カウンターに氷漬けにして置いてある箱の中からのどぐろを3匹取り出して、うち1つを指さして
「これなんか、他に比べて色が白くてきれいでしょ。こういうのはあまりおいしくないのよ。脂も少ないし。」
なんて説明してくれるんですわ。おいしいのどぐろとそうでないの、説明を聞くと確かに色やツヤが違うんで「まあ、そうかいなあ」って納得しました。私がいただいたのどぐろは確かに脂がのってて最高においしかったですわ。
おもしろかったのはこの20分後。19時20分ごろにお店にやってきた観光客らしき熟年夫婦。カウンターの私の2つ隣の席に座りはりまして、のどぐろを注文しはりました。マスターが手にしたのは、先ほどの説明による「たぶんおいしくない」はずのどぐろですわ。常連客でないとこういう仕打ちを受けるんやあって思いましたね。お店というものはマスターほかスタッフにちゃんと顔を覚えてもらって仲良くならないといけないってことを再確認しましたわ。