今週は19日から21日まで熊本で心臓外科学会という学会が開催されとりまして、それに参加する予定で九州に来ておりました。ところが優先すべき別の仕事の対応をどうしてもやらなければならなくなったために、結局時間がなくなってしまって学会には全く参加できなかったんです。今日の話は参加できなかった熊本の学会の話ではなく、途中の博多で食べた長浜ラーメンの話です。例によってどうでもええ内容です。
食べ物で「博多名物」と言うとみなさんは何を思い浮かべはりますでしょうか。全国的な知名度で言うなら「辛子明太子」と「ラーメン」、あとは「もつ鍋」ってところでしょうか。「名物にうまいものなし」って格言がありますが、私はある意味博多にも当てはまってると思います。決して明太子やラーメンやもつ鍋がおいしくないっていう意味ではありません。これ以外においしいものがありすぎて「あえて明太子なんか食べなくてもええのに」っていう思いです。食べ物のことですから好みっちゅうもんがありますので、一概に「これが一番おいしい」とは言えませんが、私の感覚では「サバ」「イカ」「牡蠣」「鶏料理」なんかは他府県で食べるのに比べて圧倒的にクオリティーが高いと感じますし、優先的に食べるべきやと思います。確かに「もつ鍋」は博多がおいしいかも知れませんが、明太子やラーメンはおいしいけど京都でも食べようと思えば食べられるお店はあると思うんです。
話は大幅に脱線しますが、辛子明太子がなんで博多の名物になってるかご存知ですか?タラコってスケトウダラの卵ですからね。本来は北海道の寒い海で獲れるもんですよね。私の予想は、韓国からキムチが入ってきてそれを参考に作りはったんやないかというもの。そのあたりを大手の明太子メーカーの1つ「福太郎」さんで教えてもらいました。正式な会社名は「株式会社山口油屋福太郎」って言います。
私の予想はだいたい的中です。昭和10年ごろに韓国から下関に辛子明太子が持ち込まれたのがはじまりだそうです。その後、徐々に博多でも作られるようになって、1975年に博多に新幹線が開通してから全国に普及するようになったようです。
辛子明太子の原料のスケトウダラの卵。スケトウダラは2~4月に産卵をするんですが、その卵は「ガム」→「真子」→「目付」→「水子」→「皮子」というように移り変わっていくそうです。ガムはまだ未成熟な卵、真子は産卵直前の状態、それから産卵が少しずつ進んで粒の間に隙間ができてくるそうです。「皮子」の状態になると卵がやせ細ってほとんど皮だけになります。福太郎さんでは2~4月に北海道で獲れる「真子」だけを使って辛子明太子を作るって言うてはりました。1年分をまとめて買って冷凍するんだそうです。
作り方は非常に簡単です。解凍して色や大きさで選別して、秘伝のタレに付け込んで熟成させてタレを切って整形して包装するだけです。秘伝のタレに使う唐辛子は、京都の料亭で使うものを取り寄せてるって言うてはりました。どこの料亭のもんか後で質問しようと思うてたんですが、聞くのをうっかり忘れてしまいました。包装の現場。
これが匠の技やってね。内容量がきっちりになるようにサイズの組み合わせを上手にするんですって。内容量が不足することが許されないのは当然ですが、オーバーも10gまでしか認められてないとのことです。
さて、大幅に脱線した話をもとに戻してラーメンの話。博多でラーメンは今までに何度も食べたことがあります。基本は豚骨の白いスープ。好みもありましょうが私は大好きです。全国展開しているお店から地元民に愛される店まで、私はどの店のでもおいしいと感じますが、地元の人がラーメンを見る目は結構厳しいです。おいしいって店は言う人によって違いますが、おいしくないって言われる店はだいたいみなさん共通ですな。
ネットの情報によると、博多のラーメンのルーツは「博多ラーメン」と「長浜ラーメン」だそうです。前者は鶏の水炊きで〆に入れる麺からきたもの、後者は市場で働く人が短時間で食べられるよう考えたものだそうですが、今では必ずしも明確な使い分けはされてないそうな。
「長浜ラーメン」という言葉は全国的にも認知度が高いと思います。京都では三条木屋町の「みよし」さんが有名かな。ここはよう儲けてはります。長浜ラーメンの定義はようわからんのですが、おいしいかどうかは別にして、やっぱり発祥の地のラーメンはいっぺん食べとかなあきません。地元の友達に案内してもらって、長浜にある老舗のラーメン店に連れていってもらいました。お目当ての店はこれ。
「元祖 長浜屋」
小さい頃からよく食べに行ってたお店で、昔いつも行列ができてておいしかったそうですが、ここのところ味がどんどん落ちてきて最近は行ってないって言うてました。私が老舗の長浜ラーメンを食べてみたいと言うたんで、とりあえずこのお店の前まで連れてきたけど、想像ですがもしかしたらその友達はこの元祖長浜屋をオススメしていいかどうか迷いがあったのかも知れません。でもあったかも知れないその迷いを払拭したのが近づいて確認できたこの表示。
「うわっ、知らない間に500円に値上がりしてる!!」
今まで400円だったそうな。それが25%値上げの500円。この気持ちはよう理解できます。金額の問題やありません。お店の経営姿勢の問題です。昔と変わらぬおいしさを維持するためならともかく、既に味が落ちてると感じてるところへ25%の値上げは許せないものがあったんやと思います。結局このお店に入るのをやめました。
数ある長浜ラーメンのお店の中であえて味が落ちてきてるお店を選ぶ理由は何もないんで、別のお店を探して歩きます。ちょうどその「元祖長浜屋」の建物の裏にまわったところに駐車場があるんですが、そこにこんな表示が。
写真の右下の部分を拡大。
「元祖長浜屋は、家とは関係ありません」
家と関係ないって、どういう意味?って思ったんですが、振り返って道路の反対側を見て理解できました。
紛らわしい名前のお店、しかも似たようなフォントで「元祖ラーメン長浜家」って書いてます。老舗の「長浜屋」と間違って「長浜家」入店する客を狙ったんでしょうな。観光客みたいに知らない人は絶対間違うと思いますわ。こういうやり方は感心しませんな。ちなみに「長浜家」は「長浜ヤ」ではなく「長浜ケ」と発音するそうです。でも「ナガハマヤ」って聞いてきた観光客は「家」の方にも入ってしまいそうです。
その時、店を探しながら案内してくれてる友達が歩きながら言いました。
「以前にこのあたりで1回だけとんでもなくマズイお店に入ったことがあるんですよ。スープがお湯みたいに薄くて味がなくて、テーブルにおいてある調味料を全部使って工夫してもおいしくならなかったんです。」
おいしい店はともかく、入ってはいけない店こそしっかり覚えておいてもらわないと困ります。1度の過ちは構いませんが、同じ過ちを2度もしてはいけません。友達はそのお店を一生懸命思い出してくれてたんでしょうな。少し考えてから断定しはりました。
「間違いない。このお店ですわ。」
友達が指差したのは、なんとまさに目の前の「元祖ラーメン長浜家」ですわ。そりゃ「長浜屋」さんもびっくりしますわな。似たような名前で間違って客を誘導した上に、マズイもの出されたんでは「長浜屋」のイメージも悪くなります。文句も言いたくなりますわ。
さあ、話はここからです。結局ラーメンは食べずに友達がいっぱいいてるお店にそのまま飲みに行きまして、みんなでその「長浜家」さんの話をしてますと、意外なお店のマスターからこんな指摘が。
「今は老舗の長浜屋よりもむしろ長浜家の方がおいしい。」
ラーメンの味の感じ方は人によって違うのはわかりますが、とんでもなくマズイと言うた友達の話と180度違います。話があまりにもかみ合いません。
で、マスターに詳しい経緯を話してもらいました。あとでネットで見たんですが、この話は地元の人は誰でも知ってる有名な話だそうな。タクシーの運転手さんに聞こうものなら、みんな自慢げに語ってくれるって書いてましたわ。
要約するとこうです。もともとの発祥は老舗の「元祖 長浜屋」。以下、「屋」と表記します。「屋」は全国にも名前が知られるほど有名になった2009年に、「屋」の従業員が辞めて独立して「元祖ラーメン長浜家」をこの場所ではない別のところにオープンしたんだそうな。マスターが言うには、老舗の「屋」はどんどん味が落ちていくのに対して、新しい「家」の方は麺を変えたりするなど味を調整するなどいろいろ工夫をしているとのこと。
それでもマズイって言うてた友達は到底納得できませんわ。そこでマスターが気が付きました。
「もちかして道路を渡った方?あれは違うんです。長浜家のぱっちもんですわ。論外ですわ。」
まさか全く同じ名前の店が近くに2軒あるとは。それは話がかみ合わないはず。マズイっていうてた友達は自分の味覚が間違ってないことが確認できてほっとしてます。
どうやら2009年にできた「長浜家」で仲間割れがあって、従業員がやめて2010年に同じ名前の店をオープンさせたのが「屋」の近くにある店なんだそうです。
今、この屋号をめぐって裁判を行われてるんです。ネットで調べたら詳しいこと書いてました。地元の人は2009年にできた方を「家1」、2010年にできた方を「家2」って呼んでいるそうな。結局このせまいエリアに「屋」「家1」「家2」と「ナガハマヤ」らしいお店は3軒あります。それどころか、この「家2」のすぐ隣に「元祖長浜ラーメン長浜屋台」っていう紛らわしいお店まであります。
この「屋台」は、「屋」「家1」「家2」のどれとも全く関係ないお店だそうです。
今、裁判でもめているのは「屋」vs「家」ではなく、「家1」vs「家2」の方。ネットにある法律家の情報から判断すると「屋」と「家」のもめごとの方は沈静化してるみたいです。商標権って難しいもんです。
マスターがおいしいというものはまず間違いありません。せっかくですので「家1」に行ってみることにしました。一応24時間営業なんですよ。
屋号は全く同じ「元祖ラーメン長浜家」ですわ。太字にはなってますがフォントまで一緒。2つの看板を並べてみます。
この「家1」にはこんな表示が。
この文章は3つ上の写真の黄色い矢印のところにも表示されるようになってます。
中に入ります。何も言わなかったら店員さんから声をかけられました。
「麺の硬さはどうしましょ?」
メニューはラーメン400円しかないので、店に入った瞬間にラーメンを作り始めるんでしょうか。とりあえず「普通でお願いします」と言いました。待つこと2分くらいかな。出てきました。
評判通りのおいしいラーメンでした。今まで関西では食べたことない味やと思います。関西の長浜ラーメンはもっと豚骨の臭みがあるんですが、これは非常にバランスのとれたスープになってます。他のお店のことがわからんので相対的な評価はしにくいのですが、たぶん最高クラスの点数をつけられるラーメンですわ。
帰ってからネットで調べた情報ですが、長浜ラーメンはもともと卸売市場で働く忙しい労働者がセリの合間にすぐに食べられるように考えられたものなので、入店と同時に麺を準備してできるだけ早く出せるようになってるんですって。麺が極細なのも早く茹でるため。人によってはほとんど茹でないのを注文する人もいるようです。これを勉強しておくべきでした。
スープの脂っこさ: ベタ→(普通)→ナシ
麺の硬さ: ナマ→カタ→(普通)→ヤワ
入店して店員と目が合った瞬間にこれを言うのが地元の人の常識だそうです。
例えば「ベタヤワ」って言うと、麺の硬さは柔らかめでスープの脂は多め、「カタナシ」って言うと、麺は硬めで脂を抜いてさっぱりしたスープになります。ちなみに「ナマ」はほとんど茹でない非常に歯ごたえのある麺になるそうです。そんなもんおいしいんやろか。
あと、お茶はセルフサービスやと想像したんですが、テーブルの上にヤカンが2つ置いてあるんです。
何も知らんもんやさかい手前の小さい方のやかんを湯のみに入れたら「返し」と呼ばれるラーメンのタレでしたわ。博多のラーメンは「替玉」って言うて、100円でラーメンの麺だけ追加できるんです。替玉を何回かするとスープが薄くなっていくそうで、このタレを少し入れるそうな。
最後にお会計は自己申告。ラーメンを食べたのはわかるんですが、替玉の回数はお店でカウントしてないようです。替玉してないので400円だけ支払ってお店を出ました。
大満足ですわ。この後に友達がマズイって言うてる「家2」のマズさがどんなもんなんか確認したろかとも思うたんですが、この「家1」が想像以上においしく幸せな気分になりましたので、あえて不幸になることは自粛して帰りました。