昨日の土曜日は久々の休日の出張。東京有楽町での仕事が終わったのが22時。いつもならどっかをぼらぼらして飲み歩くんですけど、なんせ時刻が22時。場所が東京で、スタートが22時すぎでしょ。とりあえずホテルの近くの田町駅周辺で、どっか開いてる店に適当に入って飲むことにしたんです。有楽町から京浜東北線で7分。田町で降りたのが22時20分。田町は初めて降りる駅ですが、東京とは思えないようなひっそり感があります。
改札出たところ。これが東口。
そして反対側の西口。
関西のちょっとした駅の22時20分ってもっと人が多いと思うんですけど、東京はこんなもんですかね。で、ホテルのあるのは東口の方。また京浜国道があるのが西口の方。ここから見る限りどっちも真っ暗で飲み屋がわんさかある雰囲気は感じられません。時間も時間ですので、ぼらぼら歩き回る余裕もありません。どっちの出口に出るかをここで決断するんですが、長年の経験というか鍛えられた感性というか、特に根拠なく「西口」に出てみたくなったんですわ。あえてホテルと反対側を選択するんです。
西口に出たところがすぐに京浜国道。国道沿いにはファストフード的なお店しか見えませんが、ビルとビルの間の路地にチェーン店ではない居酒屋らしい看板がチラリと見えます。
やったぁ、見つけたぁってなもんで、信号渡って路地に入りますとなんとなんと商店街があるじゃないですか。
「慶応仲通り商店街」。慶応って慶応義塾大学のことやろね。慶応ってこんなところにあるんですね。知りませんでした。この写真の遠くの方にちょっと見えると思いますが、うれしいことに飲み屋がわんさかあるんですわ。こうなってくると気持ちが変わります。田町駅の改札では「どこでもええわ」って思うてたのに、「ええ店を選びたい」に変わるんですね。
22時30分でもざっと30軒くらいのお店が営業してはったように思います。結局、商店街を2往復くらいして外観だけからの判断で良さげな店を2つに絞りまして、どっちに入るかを最終判断しようかというところで気がつきました。
どうやら私をつけてあるいているオッサンがおるんです。それもいかにも狙われているというか何かのターゲットにされているって気配を感じたんですわ。不気味でしたよ。写真を撮ったったら良かったと思うんですが、チンピラとかヤクザという感じではなくてどっちかというと刑事みたいなイメージ。
事実はわかりませんよ。単なる私の妄想なんかも知れませんが、ここで店に入るところを見られたら、その後ついてきて何かされるんやないかって思うてちょっと不安になって、入ろうと思うてた店を通り過ぎて交差点を右へ曲がったんですわ。これで一緒に曲がってついてきたらいよいよ怪しいでしょ。
さすがにその刑事風のオッサンは曲がってきませんでした。が、ですわ。曲がった道路をそのまま歩いてますと、今度は茶色のジャンパーを着た若い男が10mほど後ろをついてきよるんです。ようわからんけど不気味でしょ。で、さらに右に曲がって駅に戻る方向に速足で歩いたったんです。それでも誰かついてくるようなら、いよいよ本気で逃げんといかんでしょ。でも幸いそれ以上は誰もついてきませんでしたわ。
こういうことがありますとまた気持ちが変化します。「ええ店を選びたい」から「どこでもええわ」に戻ります。ちゃっちゃと飲んでホテルに戻ろうって気持ちになりますね。そんな気持ちで駅に戻る方向に歩いてて偶然出会ったお店。
「三田魚介センター」
「三田」は「ミタ」と読むそうな。関西人は反射的に「サンダ」と読んでしまいます。
東京で魚に期待してはいけないことは十分に知っております。ただ、気持ちが既に「どうでもええわ」になってるところで、看板に書いてあるこの言葉に心が動いてしまったんです。
「30分390円飲み放題」
だいたいこんな飲み放題って、飲み物の種類がかなり限定されてたり、ビールなんかも発泡酒だったり、日本酒もようわからん薄いもんだったりするんですが、看板には「ビールはサントリーモルツ、日本酒は白鹿、ワインに焼酎に酎ハイにカクテル・・・」って書いてます。料理も魚や貝の焼物が380円からあって、串かつなんかも1本50円からあります。どんなもんが出てくるんやわかりませんが安いです。ただ店の外から中を覗くとお客さんが1人もいません。もしかしたらもう営業終わってるのかも知れません。
お客さんが1人もいない店はハズレが多いってことは経験的に知ってますが、値段が安いところに「どうでもええわ」「早く飲みたい」の気持ちが後押しして店に入りました。少なくとも”ぼったくられる”ことはないやろうという判断です。
店にはスタッフ2人だけです。無表情な料理人のオッサンと30歳手前くらいに見える若いお兄さん。ただどっちが店長なんかはようわかりません。この若いお兄さんの人物像をイメージしやすいように、最後に店を出たときに撮った写真を先に貼り付けます。こんなキャラのお兄さんです。おもしろそうな人でしょ。
さて、店に入って何時まで営業してるんか聞きますと12時までやって言わはります。時刻は22時40分。ちょっと飲んで帰るだけなんで24時までなら十分ですわ。無愛想なオッサンが「お好きな席にどうぞ」って言わはりますんで、6人がけの広いテーブル席に1人でゆったり座りました。すぐにお兄さんがキャベツと塩昆布の付きだしとお箸とお皿を持ってきはりました。たいてはその後「先にお飲み物のご注文をお伺いします。」みたいなことを言わはるもんですが、ここは違いました。お飲み物は「30分390円の飲み放題」のメニューしかないんです。キャベツと一緒に持ってきたボードを見せながら一通り全部説明しはります。間で口をはさましてくれません。
「まず、こちらがお通しのキャベツです。では当店のシステムに説明させていただきます。飲み物はこちらにありますものすべて飲み放題で、30分あたり390円となっております。ただしおかわりは飲み物をすべて飲みきってからでお願いいたします。・・・・」
結構なハイテンションで3分くらいしゃべります。結構長く感じましたわ。このボードに書いてあることをすべてしゃべらはりました。面白かった説明が注意事項の3番目。写真で見えますかね。「お一人様一品オーダー制」とその右にわざわざシールを貼って書いてある「串揚と赤丸刺身はサービス品のため除外させていただきます」っていうの。
まず、わざわざ注意事項に「1オーダー制」って書いてあるということは、逆に言うと何も注文せんと390円で30分ひたすら飲もうとする客がおるっちゅうことかいなと思うて、このお兄さんに聞いてやりました。そんな奴おらへんやろうって聞いたら、それがやっぱりいてるんやって。往生しまっせ。もう1つ聞きました。なんで串揚と赤丸刺身をわざわざ除外したのかの理由。そうしたらこの兄さん正直に言わはりました。
「串揚とハマチの刺身は原価率が高くて利益が全くないんです。」
そりゃそうやわな。売っても利益にならんのなら、何も注文せえへんのと同じことやからね。納得です。飲み放題ルールを理解したところで、今度は聞かれました。
「料金は30分ごとに390円ですが、だいたい何分くらい飲まれるのかあらかじめ教えていただけますか?」
「そやなあ、ちょっと飲んで帰るだけなんで60分は長すぎるけど、30分はさすがにちょっと短いかなあ。まあ60分でも780円やし60分にしとこか。」
こう言いますと、彼はこう言います。
「ご注文は1時間から30分単位で承りますので、60分でお願いします。」
何や、60分以上で30分単位の注文かいな。それやったら60分以外の選択肢はないんと違うのん。24時で閉店でしょ。あっ、そうか。390円×3=1170円払って75分だけ飲むというケースがあるっか。
60分の飲み放題780円を注文が決まりまして、今度は料理の注文です。これがおすすめメニューです。
「お料理は何にしましょう?」って言わはりますんで、
「この真ん中に書いてあるハマチ刺しいうのが利益が出ないから1オーダーしたことにならへんっちゅうやつですな。ほなとりあえずそれもらいましょ。後で他にもいくつかちゃんと注文しますさかい。」
ハマチ刺しの注文を奥にいてはる無愛想なオッサンに伝えたところで、このお兄さん突然こんなこと言わはります。
「こんなテーブルで1人ぽつりと寂しくないですか?よかったらカウンターに来られませんか?食材いろいろおいてありますので。」
何や、カウンターあるんかいな。あるんやったら先に言うてもらわんと。長い説明を受けてようやく落ち着いたところで、またカウンターへの大移動です。お箸、おしぼり、キャベツ。もちろん自分のカバンや上着も運ばんとあきません。これがカウンター。
カウンターに移動したところで、彼はこう言います。
「では、今から60分飲み放題スタートです。どうぞ。」
どうぞって言われて気がつきました。飲み放題はすべてセルフサービスやったんですね。ジョッキやグラスも勝手に取って自分で作らないといけないんです。これがドリンクコーナー。
これが冷蔵庫。ビール用のジョッキがいっぱい入ってます。
写真に撮り忘れましたが、このジョッキを生ビールサーバに置いてボタンを押すと自動的にええ感じにビールが注がれるんです。
ちなみにサワーとかカクテルなんかは、こないして作り方が書いてあります。何を何プッシュして何を絞って入れて、最後に炭酸水で・・みたいな。
生ビールをカウンターの席まで持って帰りましたところで、利益の出ないサービス品の「ハマチ刺し」280円が出てきました。
さてハマチ以外に1オーダーせんといけません。せっかく焼き網があるんで、焼物を注文することに。兄さんに何がおいしいか聞きますと、「自家製サクラダイの一夜干」がたまらんほどおいしいって言います。380円。これを注文しました。すぐに持ってきてくれまして、コンロに火をつけてくれはります。
弱火でじっくり焼きますので時間がかかりますが、まだハマチ刺しがたくさんあるのでアテには困りません。ちょうど1杯目の生ビールが空きました。
「生ビールおかわり持ってきましょか?今日はヒマなんで言ってくれたら入れてきますよ。」
えらい親切なお兄さんですわ。じゃあお言葉に甘えておかわりを頼みました。
「はい生ビールです。今日は早い時間のお客さんにたくさん飲まされまして、ちょっと顔が赤くなってましてすいません。」
なるほど、最初からえらいハイテンションの兄さんやなあと思うてましたが、既にたっぷり酒飲んどるんですな。そういえば最初の写真、ルール説明のボードに「もの欲しげな店員に何か一杯280円」って書いてましたな。ビール注いでくれたんで一杯だけ飲ましてやろうかとも思うたんですが甘やかしたらあかん。やめときました。
サクラダイだけではコンロの上が寂しいので、カウンターにおいてあるサザエ380円も注文。
2杯目のビールも空きます、干物とサザエですからなあ。やっぱり日本酒が欲しくなります。今度は自分で日本酒を汲みにいきます。
「熱燗のおちょこ」と書いたかごがありまして、中におちょこが入ってます。へぇー、熱燗もあるんなら冷酒よりは熱燗の方がええなあと思いまして探したんですが、熱燗がどこに置いてあるかわかりません。で兄さんを呼びました。
「熱燗を飲みたいんやけど、どこにあるのん?」
すると兄さんがやってきはりまして説明してくれます。
「ここにポットがあります。」
確かにポットがあります。ひょっとしてポットに日本酒が入ってんのかいなと思うたら、兄さんはビールサーバーの上に置いてあったやかんを取って、ポットからお湯をやかんに入れました。
「1合にします?それとも2合にします?」
飲み放題やのに1合も2合もないやろって思うんですが、ぬるくなるとイヤなんで1合でお願いしますと、小さいチロリに樽から日本酒を入れてヤカンの中にドボン。なるほどこうやって日本酒を温めるんですね。これやったらぬるくなる心配はないから最初から2合の大きいチロリでもよかったんやけど。
サクラダイが焼けました。これがね、あんまりおいしくないんですわ。身がぱさぱさ。脂がのってない。それで次にカウンターに並べてあった「紅鮭のハラス」を注文。こちらは680円とちょっと高いですが、どう考えても脂がのっておいしそう。
そうしているうちにサザエが焼けたみたいなんですが、これ、どうやって殻から取り出してええんかわかりません。たいていはたこ焼きをひっくり返すような道具をつかって取りだすんですが、その道具がありません。お兄さんを呼びました。
「このサザエ、焼けたと思うんやけど、どないして出すのん?まさか割り箸では無理やろなあ」
すると彼は専用の道具を持ってきてくれました。しかも出す作業もしてくれるそうです。
上手に出してくれました。お酒の方はといいますと、熱燗をさらに2合おかわりしまして合計3合飲んでおります。確かに白鹿ですわ。普通においしい。サザエもなかなかのお味。そして最後に頼んだ紅鮭のハラスも脂がのっておいしかったです。サクラダイ以外お料理は値段を考えれば十分満足です。
生ビール2杯と熱燗3合飲んで、注文した料理も全部食べて、ほな帰ろうと思うたんですけど、時刻は23時30分。何時からスタートしたかわからんけど、またウーロン茶の1杯くらいはおかわりできる時間は残ってるや思うて彼に聞きました。
「飲み放題終了まであと何分あります?もう1杯くらい飲めますかね?」
すると彼、どういう計算しとんのか知らんけど、こうい言いよるんです。
「まだぁ、そうですね。20~30分くらいは大丈夫ですよ。どんどん飲んでください。」
どう考えてもスタート60分超えとると思うんですがね。
「そないあるんやったらもう1杯だけ飲もうかな。熱燗で暑くなったんで、冷たい白ワインにしますわ。それにあうオススメ料理最後に1つだけもらいましょか?」
こう言いますと彼、
「この炙りしめ鯖は最高ですよ。ボリュームもあって絶対おいしいです。」
さっきサクラダイで騙されたからなあ。でもまあワイン1杯飲んで帰るんやから何でもええわと注文しました。
これは焼物じゃないんですぐに出てきません。彼がカウンターの中で鯖を取り出してバーナーで炙って包丁で切って・・・という作業をしはります。その作業時間にいろいろ話をしました。
「これ、なかなかええ店やと思うんやけど、いつもこんな客おらへんのん?」
「いや、平日は満席ですよ。2時間制にする日もあります。やっぱり仕事帰りのサラリーマンがターゲットですからね。土曜日は21時を過ぎたらいつもこんなもんです。まだ昨年の9月にオープンしたばかりで、常連さんと言える人もあまりないですし」
ぺらぺらとようしゃべりよるんで、もっと聞いてやりました。
「これ、どう考えてもドリンクでは儲からへんわな。ちゅうことは料理で稼ぐことになると思うけど、魚屋さんの直営店ということで原価は相当安う仕入れてるんでしょうな。」
「そんなことありませんよ。うちらは薄利多売。回転させてなんぼですから。ハマチ刺しみたいに利益でないもんもあるくらいですから。」
他にもいろいろ興味深い飲食店経営の内部の話を聞かせてくれました。ちょっとここには書きにくい内容も多いんで書きません。彼はしゃべりながら作業をしまして、炙りしめ鯖の完成。びっくりするものが出てきました。
半身まるまるで480円。しかも質もかなりええ鯖です。これは抜群においしかったです。しかし食べきれるような量やありません。で、言うてやりました。
「こんなもんあるんやったらサクラダイなんかオススメせんと、最初からこれをオススメせんとあかんがな。これ1品でよかったんのに。」
さっきサクラダイをけなされた彼は、こんな風にほめられて「うれしい~うれしい~」言うて跳び上がって喜んでますわ。
相対的にしめ鯖があまるので、白ワインの後に追加でハイボールを2杯も飲んでしまいました。これでタイムアップ。お勘定です。
「合計3045円ですが、端数切捨てさせていただきますので、3040円いただきます。」
胸ポケットには千円札10枚くらいあるんですが、ズボンのポケットに硬貨が1枚だけ入ってるのがわかりました。それが50円玉か100円玉なら、3050円か3100円払って「楽しかったわ。少ないけどお釣りは取っといて」って言おうと思うてたんですが、残念なことに出てきたのは10円玉でした。
「あー10円しかないわ。しゃあないなあ。ほな4000円でお願い。」
この場合は「釣りは取っといて」とはよう言いません。すると彼、
「そしたら関西弁楽しかったんで30円サービスしときますわ。3010円だけでいいですよ。」
お言葉に甘えて30円サービスまでしてもらいました。ドリンク8杯相当飲んで790円。なかなかバリューなお店でした。「サービスしてもらった御礼に関西の友達に宣伝しておきますわ、ブログにも書いて宣伝させてもらいますわ」と言いますと、いたく喜んでくれまして、それならお店の写真を取らないといけない、できればそこに自分が写りたいって言いだ出すんです。仕方ないので帰る時に、店の外観と一緒に彼も写してやりました。
もう一度貼り付けておきます。東京へ出張の際は「三田魚介センター」をよろしくおねがいいたします。